マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

ポ村の夕暮れ その2

前回のお話

今日は小料理屋三すくみで新メニューの発表会。


てんまは新メニューで使う蜂蜜を店に届けに来たのだが、店内に自分の知らない客がいたため、入れずにいたのだ。




「まゆちゃんもうすぐ来るかな?
早く一緒に新メニュー食べたいなぁ」


実はてんまはもう、新メニューを味見済みだった。


蜂蜜酒を入荷したので、店に置いて貰う事になった時に食べさせて貰っていたのだ。


おいしかったなぁ。

蜂蜜酒と一緒に食べたい。



【蜂蜜酒】
人類最古と言われている酒。

水と蜂蜜を混ぜて放置すると、自然に酒の成分であるアルコールになる。


遙かな時を越えて、今現在も作り続けられている。



幽霊ってホントにいるのかな?


先ほど不穏な空気を感じた事を、てんまは思い出す。


もしいるとしたら、最初に蜂蜜酒を飲んだ人もまだ、幽霊として彷徨ってたりする?


ねぇ、初めてお酒飲んだ人。
どう思った?美味しいって思った?


幽霊って100年たったら強制成仏させられちゃうとか…あったりするのかなぁ…ないかなぁ?


あちこちで幽霊が密になって、ミッチリしている可能性もあるって事だよね…


寂しくなくていいのかな?
やっぱり鬱陶しい?
どう?初めてお酒飲んだ人。



変なの、幽霊の事なんて考えたりして…
ハロウィンが近いからかな?

それとも“訳の分からない何か“に、心を引っ張られてしまっている?




小料理屋三すくみに来店した、見馴れない客をもてなす三人。


いつも常連客ばかりを相手にしているので、多少緊張している様子がうかがえる。

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「それ、ソコにあるのは何デスカ?」

新規の客が質問をしてくる。



「生春巻きデス。
マダ試作中ノモノデシテ」


「試食させて頂いてもイイデスカ?」


新メニューは今日、みんなに試食して貰ってから店に出す予定だった。


初めての客なのでどうしようか迷っていたが、そこへスネ文がお代はタダにして新規のお客様からも感想を聞こうと提案する。


「ソウネ…試食シテ頂キマショウカ」




てんまはまだ、ぐずぐずと店内に入れずにいた。


薬剤師として仕事をしている時には見せないが、普段患者以外に対しては人見知りなのだ。



あのお客さん村の外から来たのかな?
何となく999に出て来る車掌さんみたい。


ふと先程吹いた妙な風、不穏な空気を感じた事を再び思い出す。


そういえば今日、全体的に村の空気がおかしい気がする。


まるでカゲが通った日みたい。



今日はカゲ通ってないよね?


霧が…出て来た。


みんなあまり守ってはいないけれど、村の掟では霧が出ている時は外に出てはいけないと言われている。


怪しい者が近くに潜んでいても、気付きにくくなってしまうから。



カゲが通っている最中は危険なため、いつもは村長がけたたましいサイレンを鳴らす。


カゲを直接見ないよう、注意喚起してくれるのだ。


カゲが近くにいるだけでも心に何らかの影響があるが、直接見てしまうとカゲからの負の影響を更に強く受けてしまうと言われているからだ。




「美味しくナイ!」


ビクッとするナメ江。


新メニューを試食した初めての客は、顔を歪めながらそう呟いた。


「オ口ニ合イマセンカ?」


怖ず怖ずしながらフロ次がたずねる。

「そうデスネ」




店外でまゆを待っていたてんまの元に、ミツバチが何かを伝えにやって来ていた。


「え?」

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逢魔が時に村に侵入して来たカゲ。

人の心に忍び込み負の感情をもたらす魔物。


それが村をウロついていた?


普段はただ、村を通りすぎて行くだけの存在。


店内にいる客の不穏な雰囲気。
ミツバチたちの話。


てんまはその二つのものを、結びつけて考えていた。



“生春巻きに使う蜂蜜…渡さなきゃ…”




店内にいる初めての客は、まだ何事か呟いていた。


「北京ダック風の生春巻き?
風っていうのは結局偽物って意味デショウ?

飲食店で客に偽物ヲ?

家庭で出すナラまだしも、こんなのはただ物足りないダケデス」


「申シ訳ナイデス。下ゲマスネ」

「マタ改良シテカラ出ソウ」


「いやいやそんなことしても無駄デスヨ。

改良して何とかなるレベルではナイ。

二度と出サナイ方がイイ。

美味しくないだけじゃなく、食べづらいシ」



三すくみの人たちが落ち込むほど、その客は上機嫌で意見を言い続ける。


「いやぁ、本当に美味しくナイ。

こんなものでお腹を満たしてしまうなんて、最悪と言ってイイ。

一体こんなモノを出そうと言いだしたのは、ドナタデス?」


さっきから口もきけずにいたナメ江は、すでに溶けて気を失いそうになっている。

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「もういいでしょう?静かにして貰っていいですか?」


「テンマさんっ?」

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「何デスカ?突然!あなたドナタ?
本当の事を言ってはイケマセン?」


「そうは言ってません。
でも…あなたには私、許可しないかな」


「意見を言うノニ、あなたの許可が必要ダトデモ?
一体何様デス?」


「よく喋りますね。
初めての店で初対面の人間に。

あなたは…
必要以上に人の心にダメージを与えたいみたい。

だからそうやってベラベラと」


「何ヲッ」


「そしてそれが楽しくて仕方がないみたい。
それ趣味なのかな?センスない趣味…

味覚のセンスもないのかな?

好みはそれぞれだけど、嫌いだったら自分から北京ダック食べさせてくれなんて言わないよね?」


「失礼ナ!客デスヨ?」


「他人はあなたみたいな人を、どう思うのかは知らない。

でもね、私は許さないの」


「アナタの許しなんて求めてませんケド!」


「あっそ。そうだ。
風が嫌なら本物あげる。
北京ダックじゃなくて蜂蜜だけど。
採れたて、本物。遠慮なくどうぞ」

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「おいしいですよ、それ」




“こんなに近くまで、カゲが来てしまう事があるんだ。
心を弱らせて免疫力を下げて、ウイルスにかかりやすくなるように、仕掛けてくる。

でもあれがカゲだったなんて…

ナメ江さんたちには言えない。
店内にまでカゲが入り込んだなんて知ったら本当に免疫力が下がってしまうかもしれない。

ナメ江さんは特に持病持ちで怖がりさんだから”





ガラガラっ。


「来たよ~!」


「イラッシャイマセ」
「オ待チシテマシタ」

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みんなで楽しく食事会が始まった。


てんまが持ってきた蜂蜜の瓶は入念に洗浄・消毒してから、使用する事にした。


「お客さん(一応)に対してごめんなさい。
三すくみのみんなのことも考えないで」


「ソンナ、イイノデス」

「客商売ハ難シイデス」

「テンマさんニ、アンナコト言ワセテシマッテ、コチラコソゴメンナサイ」



「てんまがキレたって?
薬剤師向いて無いなぁ。
案外切れやすいんだよ。通称:キレやす子」


てんまは俯いて座っている。


話を聞いていたUSAが口をはさむ。


「一体誰が言ってんのよ」


「だっててんまの患者じゃ無いからって、ナメたちの客に対してさぁ。
まぁそいつもタダで食わして貰っているくせに、図々しいっちゃ図々しいけどな」


「モウ大丈夫デス。皆サンニ新メニューノ味ヲ褒メテ頂イタノデ」



まゆとてんま、マメチュー先生は、何やらひそひそと話しこむ。


「何にゃ?」


「にゃこはいいのっ」


「何にゃさっ」



「カゲがいたって?店ん中に?」

「うん。あんななんだなぁ…カゲって」

「…聞いたことがあります。
突然変異をしたカゲの話」


「マジか。ウイルスみたいだな」


「気をつけないといけませんね…」


三人は村長がセルフメディケーションと、声高に叫ぶ姿が目に浮かぶ。


村長は医療費を抑え、健康で長生きする事をポ村の住民に推奨している。



その為、免疫力を低下させてくるカゲの存在はとても脅威になるのだ。



「そんなやつブチのめしてやりゃあ良かったのによ」


通称:ブチ切れ子


「で、どうなったんだ?そのカゲ」


「うん…分かんないけど消えてった。霧のように」


「ふうん…」



「テンマさん、サッキハ本当ニアリガトウ!」


「デモ、スネさん。
コノ生春巻き、アノオ客様ガ言ウ通リ、食ベニクイカモシレナイ。
ヒキ肉ハモウ少シ、粗クシテ入レマショウ。
コボレニクク、ナルヨウニ」


「やだ、ナメちゃん!
やる気、元気、三すくみね~」


「ねぇ、今日は生春巻きパーティーにしよう!
アボカドとかサーモンのやつも作って!
この間の卵サラダとカイワレと甘辛チャーシュー入りのやつもっ」


「ハイハイ、オ待チサイ」

「お酒もお願~いっ」


「ハイハイ!」


三すくみの皆さんが元気そうなので、安心するてんまさんでした。