パゴロウさんは薬学生時代研修の為、病院や調剤薬局に研修に行っていました。
当時は言われるがまま、されるがまま。
5ヶ月も実習期間があったのに、日々何が何だか分からずに、いつの間にか終了していました。
成績はいい方だと思っていたのに。
恥かかないよう勉強し、あわよくば「こんなに出来る学生は初めてだよ。今すぐ即戦力として働いて欲しい位だ」なんて言われてしまうかも、と妄想までしてしまっていたのに………
ですが学校で学んだ通りには全くいきません。
どうやら机の上だけの勉強で、分かった気になっていただけのようでした。
どうして誰も学んだ通りに行く方法を、教えといてくれないのでしょう?
教科書に載っている例文以外の、イレギュラーな出来事に対する対応がまったく出来ない………
ある日ー。
ボクが大好きな笹を、自分で育てようと思い立ちました。
良い笹を育てるため、一生懸命本を読み込んでからの実践。
“美味しい笹の育て方”
失敗のないよう、しっかり本を読んだのはずなのに病気になってしまった笹。
何で?
この病気何?
直射日光には当てていないはずなのに、葉っぱが焼けているみたい。
根っこだって乾燥させていないし、ジメジメしたところに植えているのに。
だから何で?
研修先の調剤薬局。
そこにはどう見ても、ベテランの女薬剤師がいました。
薬局長よりもこの薬局に、長くいるそうです。
そこは患者さんの多い薬局で、皆さん大変そうでした。
なのにそのベテラン女薬剤師は、薬局の奥に引っ込んだまま、何もせず出て来ることもありません。
教える立場なのでは、ないのでしょうか。
何を言われても、聞こえない振りをしているみたい。
そして何故か、そのベテラン女薬剤師に声をかけている患者さん。
何故??
「アナタ耳が腐っているのですか?それとも聞こえない振り?」
パゴロウさんは知りませんが、声をかけている彼は、調剤薬局を経営する家の息子で薬剤師のイチイさん。
他の薬局を回っては、優秀な薬剤師をスカウトしています。
その一方で、駄目薬剤師の存在を許すことが出来ないようです。
患者さんに直接呼ばれていると言うのに、身動き一つしなベテラン女薬剤師。
(凄い精神力です)
たまたまその間にいた、パゴロウさんの方があたふたしてしまいます。
「あ、あの~すいません。患者さんが…」
(っていうかあの患者さん怖い。あんな人もいるの?)
きっとこのベテラン女薬剤師は、薬剤師免許をとって以降、全く勉強していないのかもしれません。
どんどん進化していく医療。
医師・看護師同様、常に学び続けなければいけない職業。
もうあのベテラン女薬剤師は、何も分からない素人同然なのかもしれない。
何の為に薬剤師になったのでしょう。
その癖、プライドは高く後輩薬剤師や、患者さんに対して「分からない」と、素直に言うことが出来ない。
この調剤薬局の、ただのお荷物。
だけど、おそらくは…
こういう人は、珍しく無いのかも知れない…
そんな風に思いました。
そして
“あの人のようにならないようにしなくては”
そんな風にも思いました。
“患者さんの役に立ちたいから!”
でも今は何も出来ずに、頭真っ白で立ちすくんでいるだけ。
ダメだぁ。
深呼吸。
ダメ…
「おーい」
気が付くとさっきのこわい患者さんに、声をかけられていました。
心配そうにパゴロウさんを、見つめています。
「顔青いよ?君、もしかして学生さん?」
「えっと、は、はいっ」
「ほら、学生!」
冷や汗をかいているパゴロウさんに、ハンカチを渡してくれる患者さん。
「え?あ?」
「未使用」
戸惑っていると
「今日はもう帰るよ」
と、去っていきました。
パゴロウさんは、上手くお礼も言えず呆然。
鏡を見ると本当に、顔色が悪く冷や汗をかいている自分がいました。
(分かりやすく戸惑っちゃったんだ…患者さんに気付かれるくらい)
ダメダメだ。
こんなんじゃ。
患者さんの様子・表情の変化に気付かなければいけないのは、薬剤師である(まだ学生だけど)ボクの方なのに。
妄想通りの薬剤師になれなかった…
ではなく、妄想通りの薬剤師にならなくては。
そう決意したあの日の事。
今でも鮮明に思い出します。