てんまさんの妹しょうまさんは、化粧品会社に勤める薬剤師。
化粧品に配合された成分に問題が無いか等のチェックをするお仕事です。
たまに遊びに行くついでに、マメチュー先生のお手伝いもしています。
記憶力、特にエピソード記憶(経験した出来事を映像を見ているように、思い出すことが出来る)がすごく患者さんとの事もよく覚えているしょうまさん。
前にUSAにそんなことを聞かれた事があった。
「何でだぁー?」
「質問返しやめて」
化粧品が好き。
メイクするのが好き。
もっとキレイになりたい。
お姫様になって、大事にして貰いたい。
口をひん曲げて話を聞いているUSA。
「“十分可愛い”って言わせようとしてるでしょ」
クスクスと笑っているのに、悲しそうにも見える複雑な笑顔を見せるしょうまさん。
「薬も好きだよ。キレイになるお手伝いをしてくれる薬とか。一緒に老化と戦ってくれてる感じ」
「老化ってやな事言うわね」
「でもあたしも肌がキレイになる薬が欲しいー」
「ウエストが細くなる薬欲しい-」
「鼻が高くなる薬ー」
「それメス必須のやつ。」
それに鼻の高いUSAの姿は、想像出来ません。
(あたしが求めているのは、キレイなあたしの母や、あの姉…彼女たちに負けない位の美しさ)
あたしとてんまの父親、あの人を振り向かせたい。
(だからこっちを見てってば)
人より記憶力のいい自分。
幼い頃は、この秀でた記憶力のせいで、何度も傷ついていた。
周囲の人達は、自分との思い出を片っ端から忘れていった。
もちろん父も…
“忘れる”
幼い頃はその現象が理解出来ず
“忘れたふりをされている”
“ウソをつかれている”
とずっと思い込んでいた。
(何で皆、アタシに意地悪言うの?忘れたなんてウソをつくの?)
“忘れる”
それがどういうことか成長するにつれ、少しずつ理解するようになっていった。
でも…
それでも忘れずに“覚えている”事もあるはずだよね。
(お父さん。どうしてあたしとの思い出を忘れちゃうの?興味、無いの?)
それはあたしにとっては大切な記憶。
何度も何度も思い出すくらい大切な記憶。
でもあたししか覚えていないのなら、
なんの意味も無い…
ただの妄想と変わらない…
幼い頃。
父と始めて二人だけで山に出掛けた。
父の好きな山。
一緒に木の実を食べた。
「ねぇ、お父さん見てっ。へびいちご~
こんなに美味しそうなのに食べられないなんて変なの。
ホントかな~。
お父さん、これ食べてみて」
「え?!」
「美味くなかった」
「食べたの?」
「美味そうだからな」
「やることトリッキーだよ」
「失礼な」
特に何があったわけでも無いけれど。
二人で出掛けてくれるなんて殆ど無かった父。
嬉しかった。
でも喜んでいたのはあたしだけ。
今は、“忘れられたこと”を何度も思い出している。
そして思い出すたびに失われる自尊心。
いつまで、幼子のようにいじけてたら良いんだろう。
バカみたい。
こんなにバカだって、バレたくない。
誰にも…
……………………。
でも誰も知らないんだから…
「何が?何なの、急に」
ずっとしょうまさんの横にして座っていた、まゆさんびっくり。
「内緒」
誰にも教えない。
「あっそ、別にそこまで興味ない」
「嘘ばっかり」
「当ててやろうか」
「…何を」
「今あたしが隣にいたこと忘れていたろう?!」
「何ですって?記憶力のいいこの日あたくしが?」
「別にいいけど…何考えていたんだか。」
「傷ついちゃった?ご飯食べに行こうか」
「…別にいいけど」
結局まゆさん。
少しだけご飯代を多く出して貰いました。