大量にカゲが、ポ村を通過。
そんな日はとても心が、ざわつきます。
人によっては、食欲不振・睡眠障害等の症状が、あらわれる。
他に不安な思いが心をしめたり、全てのやる気が失われたりする事もあります。
そんな時クロ太さんは、心を落ち着かせる為、深呼吸。
カゲの通過によって突然湧き上がる、孤独感や消失感に押し潰されないように、深く息を吐き出します。
心に巣くおうとする、そのモヤモヤを吐き出すように。
皆さんはそういう時、どうしているのでしょう。
大量にカゲが通過していった時は、集団で知らない人に、心の中を土足で上がり込まれた気がします。
一方ボンヤリと空(クウ)を見つめるてんまさん。
“忘れちゃったの?おねえちゃん”
てんまさんは、事実があやふやにならないように、絵に描いて覚えます。
だけどカゲの存在を感じると今起きたことでも、時系列から何から混乱し、人に説明することすら出来なくなってしまう。
皆との楽しい思い出も忘れてしまいそう。
(やだなぁ、意地悪しないで欲しいなぁ)
早く書きとめないと…
(あれ?あれあれ??)
もう忘れてる…?
幸せな何かを取られ、不安な何かを置いていかれた感覚。
(やだなぁ…)
「あんたはホント、幸せなんだか、不幸なんだか分からない顔してるよね」
「まゆちゃん?」
「ほれ。ベニテングタケの仲間。
グルタミン酸の10倍の成分が入っててウマいらしいよ。
旨み成分に引き寄せられてハエも食べにくる位。
でもどっかの国ではそれを利用して、殺虫剤みたいにして使ってんだって。
これで人を殺すのはなかなか難しいと思うけど」
「…美味しそうじゃないものね。見た目は可愛いけど」
「ホントだぁ。可愛い!私ね…」
「うん?」
「絵本の中のお姫様になりたかったんだ」
「てんまが?!へぇ何か意外。
あたしは逆に嫌だったな。
自分が女の子みたいになるのは。
七五三も嫌でさ。
可愛い着物を着させられるのがホント嫌で。
罠にかかった猪みたいに暴れ回って、結局着なかった。
中学生になって、制服着るまではスカート履いたことなかったなぁ」
「まゆちゃんらしいエピソード。まゆちゃんはさ。口が悪くて、育ちも悪い王子様みたい。」
「どういう王子?悪口?
ある日突然出生の秘密を聞かされるタイプの奴?」
「さらにホントは、勇者なの」
「設定うるさいなぁ」
「でもちょっとだけ優しい」
「武器それだけかよ」
「最初から持っている薬草みたい。少しだけ回復してくれるの」
「そんな奴、出生の秘密明かされても何もできなくてねぇ?」
「まゆちゃん、私は薬草の力すら持ってない。人を回復させてあげることなんて出来ない。
でもね、私を一緒に世界を守る旅に連れっててくれたら、まゆちゃんだけは守ってあげるからね。
ホントだよ」
「ポンコツ勇者を?そんな価値あるかね」
「表情ちょっと戻ったな。さっき“心に鍵かけてます”みたいな顔してたから。原因カゲ?ひょっとしてカゲ相手に人見知ってた?知らない人間苦手だよなぁ、お前。患者以外は」
「……」
「あんなの人じゃない」
「私、人形にも人見知りしちゃう」
「アホ!しっかしさ、何で人って生き物は、嫌な事がないと、幸せを実感する事ができないのかね?
この世界は変な設定が、いっぱいあるよな。
変なもん食って体壊したら、薬飲むとか。
そもそも体壊すって設定が、いらない。
“何でも食える元気な体”で良いじゃんな?」
「私たちのお仕事無くなっちゃうよ」
「お前さ、勝手に組み込まれた本能や設定に振り回されるなよ?
まぁ、例えばだけど…
妹と比べる→自分を不幸に思う
みたいな設定さ…
あたしは、兄弟間に存在する設定についてはよく分からないけど。
一人っ子だから。
もしそういうのあるなら、自分で設定作り変えろ。」
「どうやって?」
「知らねぇよ。人に何でも聞くな。てめぇで考えろ!じゃなきゃ自分の道を歩いて行くことなんて出来ねぇよ」
「難しいね」
「簡単じゃつまんねぇだろ」
「じゃあな。食うなよ?ベニテングタケ」
「どこ行くの?座って。もうちょっと話そう?」
「……」
でもその後、まゆとてんまは二人で無言のまま、しばらく座っていただけでした。